ブラックスワン 解釈・感想 【純白の野心は、 やがて漆黒の狂気に変わる】
トレイラー
あらすじ
ニューヨーク・シティ・バレエ団に所属するバレリーナ、ニナ(ナタリー・ポートマン)は、踊りは完ぺきで優等生のような女性。芸術監督のトーマス(ヴァンサン・カッセル)は、花形のベス(ウィノナ・ライダー)を降板させ、新しい振り付けで新シーズンの「白鳥の湖」公演を行うことを決定する。そしてニナが次のプリマ・バレリーナに抜てきされるが、気品あふれる白鳥は心配ないものの、狡猾(こうかつ)で官能的な黒鳥を演じることに不安があり……。
シネマトゥデイ (外部リンク)
感想
この映画の終わりは本当に衝撃的だった。作品の中の始終張りつめた空気、圧迫感が最後に一気にほどけるような錯覚を受けたからだ。この作品、バレエというテーマの為、自分には向いていないと思っていたが本当に面白く見る事が出来た。今敏監督の「パーフェクトブルー」にインスパイアされたと聞いて見てみたのだがやはり主人公の精神崩壊という面では似ているところがあった。現実と幻覚の境界がどんどん崩れていくという過程は見る人を混乱させ、主人公の狂気へと引きこんでいく。
しかしこの映画、ホラーシーンはそこまで無く、どちらかというとサスペンス映画だった思う。ダーレン・アロノフスキー監督の作品は色々見たが、ストーリーにこれほど引き込まれたのは初めてだ。
この映画は異常なまでの完璧への執着が、狂気へと変わっていく過程の心理描写を芸術的に描いた傑作だと思う。ナタリー・ポートマンの演技もまた絶妙で、この純粋でナイーブなニナの役にはまっていた。
ハリウッドの薄っぺらい量産品に飽きた人、奥深い映画が見たい人にオススメ。
以下ネタバレ注意!
解釈
この映画が始まる時、すでにその後どういう風にストーリーが展開していくが分かるヒントが出されている。過保護な母親の元で育った、真面目で努力家のニナはバレエの世界に没頭している。ところが、ようやく白鳥の役を得た彼女は他のバレリーナから嫌がらせを受けてしまう。そこから徐徐に彼女は精神不安定になっていく...
ここから、この映画は難解になっていく。何故なら現実と幻覚の境界が無くなってしまうからだ。
ここで、この作品の解釈は3つに分かれると思う。
- リリーは実在していない。ニナの被害妄想から生まれた幻覚である。
- リリーは実在しているが、彼女が「悪意を持ったライバル」としてでてくる大半のシーンはニナの妄想である。
- リリーは実在していて、ニナを精神的にコントロールしていて狂気へと追いやった。
自分の解釈はかなり極端で、リリーは実際に存在しない人物だと思っている。何故ならニナが白鳥の役を得た時にちょうどその正反対の性格のリリーがやってきて、主役の座を奪う程の実力を持っていた、というのは都合が良すぎるからだ。実際、リリーはニナの不安、被害妄想が作り上げた人物だと思う。それを証明する点をいくつか紹介してみる。
- バレリーナだというのにリリーは背中に大きな入れ墨をしている。有名なバレエ団がそのような人を主役に採用するとは考えがたい。この入れ墨はニナの黒鳥の演技に対する執着を象徴していると思う。
- ニナの母親はリリーに会っていない。
- 他のバレリーナも練習意外では誰も彼女に会っていない。
- 白鳥の湖の出演者のリストに彼女の名前は無い。
- リリーがいなくても「現実世界」には何の変化も無い。
この事からリリーはニナが求めていた「完璧な演技」を象徴した、想像の産物だと思う。これはあくまでも個人的な解釈であり、これに賛成しなくてもこの視点を意識して映画を見直せば新しい見方が出来ると思う。この映画の良いところは見る人によってストーリーが変わるところだ。見る度に新しい発見が出来るはず。